« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年5月

テレンス・ボイラン/Did She Finally Get To You

 前回のAOR名曲紹介は、オシャレな曲というより、男性的な匂いのするファラガーブラザーズの曲を取り上げましたが、今回も男臭さがたまらない1曲です。

 以前に、ディン・ドナヒューの回に登場したAORアーティスト、テレンス・ボイランです。彼の作品は、フェンダーローズがオシャレに鳴り響くようなロマンティックな世界とはほど遠く、むしろ骨太なサウンドに歌い方、しかも決して歌が上手いとは言えない歌唱力なのですが、単なるロックとして片付けてしまうにはもったいないアーティストです。デイン・ドナヒューもテレンス・ボイランのプロデュースで、彼に近い雰囲気をアルバムに持っていました。

 今回、紹介する名曲は、男臭く、しかしながらAOR的ポップスセンスを持った、基本的にはロックの「Did She Finally Get To You」です。1980年にリリースされた3枚目のアルバム「SUZY」からのハイライト曲の一つになる曲です。ローズピアノからフェードインしてくる甘いイントロから一転し、太いテレンス・ボイランの声、しかもギターがしっかり自己主張していますが、決して安っぽいロックにはなっていません。ところどころに入るピアノや、ローズピアノの優しい音色は、「基本はロック。でもオシャレ」といったAOR的な絶妙なバランスを醸し出しています。特にサビの「Did She Finally Get To You~」は、カッコ良いです。この曲のバックミュージシャンには、ジム・ゴードンのドラム、マイク・ポーカロのベース、ジェイ・ワインディングのピアノ、ヴィクター・フェルドマンのコンガと、お馴染みAORミュージシャンに、ギターで目立つジェイ・グレイドン。コーラスのドンヘンリーとティム・シュミットと豪華です。他の曲では、マイケル・オマーティアンやエド・グリーン、ジェフ・バクスター、ラリー・カールトン、ドン・フェルダーなどが参加し、当時だから出来たようなナイスな面子です。

 テレンス・ボイランは、摩天楼が似合うアーティストでもなければ、夜が似合うような雰囲気が曲にあるわけではないのですが、鍵盤楽器にハーモニーの使い方、そして優しい歌い方がAOR的センスを感じさせるのかもしれません。スローバラード系にいたっては、カントリーロックさも感じさせますが、歌詞やメロディーの良さが、AORにありがちな哀愁を感じさせてくれます。

 もともとテレンス・ボイランといえば、ファースト・アルバム「ALIAS BOONA」(1969)でのドナルド・フェイゲンやウォルター・ベッカー参加によって、AORの印象を植え付けている部分が大きいのですが、このファーストは決してAORではありません。むしろセカンドの「TERENCE BOYLAN」(1977)の方がよりAOR的なアルバムと言えるでしょう。

 「TERENCE BOYLAN」と「SUZY」は、AORアルバムの中でも個人的によく聴いたアルバムで、AORの良さをしみじみ伝えてくれる良盤です。今のシンセや打ち込みの安いバラード系AORとは違い、実に奥が深い。こういうのをAORの原点と言ってくれる人が少ないことに最近は特にがっかりです。怪しい曲のひねりをスティーリーダン・フォロワーと言ったり、薄っぺらく安っぽいサビのラブソングめいたものAORと言ったり、「AOR」が日本発祥の造語とはいえ、20年以上前とはAORのイメージが変わりつつある今日この頃に悲しさを覚えます。

 AORって、ある意味、「男」が哀愁や渋さに浸るための男側から観た感情が、歌詞や曲の中心にあったはずですが(もしくは社会風刺的な歌詞だったり)、最近は解釈が変わってきたのでしょうか?

 ともかく、男の渋さ=カッコ良さを追求した楽曲を、最近のAORアーティスト、またはAOR好きミュージシャンと呼ばれる人たちに書いてもらいたいですね。そんなことを感じるにはピッタリの名曲、そしてアーティスト、テレンス・ボイランを是非聴いてみてください。(Night-Plane)

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »