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Paul Anka / Hold Me 'Til The Mornin' Comes

 秋に向かうと世の中はセンチメンタルな気分になりますが、今回はベタなバラードを紹介します。今となっては、オールディーズの象徴のような存在のアーティスト、ポール・アンカですが、1970年代から80年代にかけては、AOR系のミュージシャンと組み、しっかりAORしていました。

 もともと彼自身のソングライティングにおけるセンスは一流のものがあり、1977年にリリースされた「THE MUSIC MAN」は、全て彼の手により書かれた作品であり、しかも曲のベースはどれも質の高いポップスとなっています。いわゆるAORとしては、少し曲の派手さや表情が弱いですが、良い曲が多く含まれたアルバムです。バックを固めるミュージシャンも、ジェフ・ポーカロやエド・グリーン、デヴィッド・ハンゲイト、ラリー・カールトン、エリオット・ランドール、ジェイ・グレイドン、フレッド・タケット、デヴィッド・ペイチ、そしてデヴィッド・フォスター、と、AORへ突き進む自然な道筋が出来ているかのようです。

 その後、1978年には、「LISTEN TO YOUR HEART」をリリース。デヴィッド・フォスターとの共同作品をはじめ、他のソングライター陣の曲を取り入れることによって、よりAOR色を強めていきます。このアルバムに至っては、既にAORアルバムとして聴いても楽しめる域にまで達しつつあります。そして最近CD化が実現した「HEADLINES」(1979)で更に進化を遂げていきます。

 そんなポール・アンカがAOR的観点から最高潮に達するのが今回の名曲を含むアルバム「WALK A FINE LINE」(1983)です。AORガイド本でもお馴染みであり、AOR名盤としても古くからマニアの間で愛聴盤とされているアルバムですが、このアルバムに収められた楽曲群は、AORとしてはパーフェクトな出来と言っても過言ではありません。それもそのはずで、プロデューサーは、ジョニー・マティスの時に紹介したデニー・ディアンテが務め、作曲家陣にはデヴィッド・フォスターとマイケル・マクドナルドが強力にバックアップしています。アルバムの随所に現れるマイケル・マクドナルド的な曲調とフレーズは、ポール・アンカの歌声までマイケル・マクドナルド風にしてしまっています。多少、やりすぎ感も感じられますが、大目に見ましょう。

 オープニングを飾る「Second Chance」は、元気が出るような明るく爽やかなナンバーで好感が持てます。また、「No Way Out」や「Walk A Fine Line」は、ドゥービーブラザーズで確固たる地位と名声を得たマイケル・マクドナルドの独壇場と言ったような、まさしくマイケル色の強い作品です。また、「Take Me In Your Arms」は、いかにもデヴィッド・フォスターといったキーボードのイントロから始まります。まるでピーター・アレンの名曲「One Step Over The Borderline」を思い起こさせるようなリズムに身体もノッてしまいそうです。

さて、今回の名曲ですが、これもやはりデヴィッド・フォスターとの共作ですが、恐らくポール・アンカの代表作と言えるほどの素晴らしい出来です。タイトルは、「Hold Me 'Til The Mornin' Comes」で、歌詞は、心が離れてしまった2人が、朝まで抱き合うことで、何とか愛し合っていた頃の2人に戻れないかと願う、少し切ない内容です。どちらかというと男性の方が、離れていく彼女を求め続けているような印象が強いです。この曲の良いところは何と言ってもデヴィッド・フォスターが弾く、切なさのにじみ出るピアノの音色でしょう。バックヴォーカルで参加しているシカゴのピーター・セテラの歌声と合わせると、まさしくこれはシカゴの名曲「Hard To Say I'm Sorry」です。どちらもデヴィッド・フォスターの作品なので仕方がないのですが、サビの部分のハモリ具合や盛り上がり方など、そして優しいピアノの音色など、とてもそっくりです。しかし、それはそれ、これはこれで、とりあえず素晴らしい仕上がりになっています。「Hard To Say I'm Sorry」同様、まさに名曲です。

 アルバムに参加しているバック・ミュージシャンも、AORの集大成と言わんばかりに豪華です。前出のデヴィッド・フォスターにマイケル・マクドナルド、ピーター・セテラ、そして、スティーヴ・ルカサー、ジェイ・グレイドン、ビル・クオモ、ジョン・ロビンソン、マイク・ベアード、ネイサン・イースト、ジェフ・ポーカロ、ミッシェル・コロンビー、ポウリーニョ・ダ・コスタ、ケニー・ロギンス、マーティ・ウォルッシュ、アーニー・ワッツ、リー・スカラー、リチャード・ペイジ、スティーヴ・ジョージ、スティーヴ・キプナーなど、はっきり言ってAORミュージシャンのデパートです。これだけ固めれば、悪いわけがない、っと言ったところです。最後の「Golden Boy」もアップテンポで、軽いディスコ・ロック的なノリがありますが、時代を象徴した新しい感覚だったのでしょう。

 何しろ、今回の名曲1曲に限らず、アルバム全体の曲が素晴らしい出来の名盤です。

 ポール・アンカを古臭いアーティストと思わず、当時は彼なりに新しいポップスやロック的な音楽性を探求しながら果敢に新しいものを取り入れていった先駆的なアーティストと考えた方が良いでしょう。

 確かに、スタンダード・ジャズや、ややスローな曲を好むようになった頃のオールディーズ的なポール・アンカの存在が印象強いことは仕方ありませんが、AORファンとしてはそんな彼にいつまでもAOR感覚を忘れないでもらいたいものです。

 是非、今回の名曲は、1人でじっくり聴いてもらいたいオススメの1曲です。(Night-Plane)

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