音楽

フランキー・ブルー/Who's Foolin' Who?

 どんな世界でも、ただ一度だけ大きな成功を収めたり名声を集めたりした後で、そのまま姿を見かけることもなく、消息すらわからなくなってしまうような人はいます。多くの場合、世間はそういった人に対して「一発屋」といった、本人にすれば全く喜ばしくない形容の仕方をするものです。でも、その一度きりの成功の中身が、いつまでも人の心に残る素晴らしいもので、その人にまたいつか姿を見せてほしいと願わずにおれないほどのものであれば、それは「一発屋」の言葉に当てはまらないものだといえます。今回ご紹介させていただくフランキー・ブルーという人は、まさにたった1作品だけ、世のAORファンの胸に深く刻まれるメロディを残した、忘れ難きアーティストの一人です。
 82年に彼が出したアルバム「Who's Foolin' Who」は、日本でも「潮風(かぜ)のバラード」という素敵な邦題がつけられてリリースされています。おそらく、当時のAOR全盛時の中においては、大物アーティストがビルボードのトップ40を賑わす中で、静かな存在感を示していたに過ぎないアルバムであったのではと推測します。ところがその後、AORというジャンルが過度に成熟し、シンセサウンドが仰々しいほどに厚みを増していく中で、むしろ余分な装飾をそぎ落としたメロディ本位の音楽こそが、真に洗練されたものではないかという思いが、純粋なAORファンの心に広がっていきました。ロック調の力強い出だしから始まり、思いがけないような爽やかさに包まれたサビのメロディを聴かせるタイトル曲や、80年代AORバラードのすべての魅力を詰め込んだ「Take Your Time」などの珠玉の作品群は、ひとつの大きな波が去った後の「中古レコード時代(80年代終わり〜90年代なかば)」になってようやく、熱心なファンからのスポットを浴びることになったのでした。
 昨年、Night-Planeさんから再発となったこのCDをプレゼントしていただいた時から、学生時代の、音楽との出逢いをドキドキしながら楽しんでいたあの頃の気持ちのままに、このアルバムを繰り返し聴いています。そして、フランキー・ブルーという人は、今どこで、何をされているんだろうか…と、その度に気にしている自分にも気づきながら…。
(S.Y)

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スニーカー/More Than Just

 誰でも時には、胸がせつなくなるようなメロディをもった曲を聴きたくなります。そういう時、僕にとって一番に思い浮かぶのは、スニーカーというグループの「More Than Just」という曲です。80年代の前半にLAで結成されたこのグループは、高音の甘い声質をもったマイケル・ケアリー・シュナイダー(vo,key)とギタリストのミッチ・クレイン(g)を中心にした6人編成のバンドで、「More Than Just」でのロマンチックな風合いとは裏腹に、スティーリー・ダンの影響を色濃く受けたメンバーの集まりだったようです。グループの全体像としての見方については、いつかまたNight-Planeさんに解説していただくとして、僕はその「More Than Just」についてのみ、その胸に染み入るようなメロディの良さをお伝えしてみたいと思いました。
 グループ名「スニーカー」も、なんとなくセンチメンタルな響きをもった名前ですが、そのイメージをうまく用いて、このバラードには「想い出のスニーカー」という邦題がつけられていました。そのせいか、本来の歌詞は純然たるラブソングであったはずが、青春のセピア色の想い出を綴っているようにも聴こえてきます。静かなピアノの美しい旋律から始まり、マイケルの柔らかく温かみを帯びた、なおかつ若々しさにも溢れた歌声が響いてきて、それをシンフォニックなバックサウンドが包み込んでいきます。盛り上がりの部分でも仰々しさは一切みせないまま、ひたすらせつなさがつのっていくような流れのままで曲は最終まで進んでいきます。
 この「More Than Just」を聴きたいがために、僕は年に何度かスニーカーのCDを取り出しては、気持ちをゆったりとさせるように聴きいっています。星の数ほどあるバラードの中でも、聴く度にこれほど深く心にせまってくるような曲には、そうそう出会えるものではないと思います。
 スニーカーの「More Than Just」、まさに珠玉の名バラードと呼ぶにふさわしい作品としてご案内したいと思います。(S.Y)

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マイケル・フランクス/Sleeping Gypsy

 なんとなく気が滅入ってる時とか、疲れてるなと感じる時なんかには、ちょっと元気の出るような音楽でもあるといいな、と思ったりします。それも、変に気持ちを奮い立たせるようなものでなく、ゆったりとした気分にさせてくれるようなものが欲しくなります。
 マイケル・フランクスの代表作「Sleeping Gypsy(スリーピング・ジプシー)」は、僕のそういう要望に応えてくれるアルバムで、オープニングを飾る「The Lady Wants To Know」のイントロを耳にするだけで、自分の心に爽やかな風が吹き込んできたのが感じられます。
 制作を手掛けたトミー・リピューマ&アル・シュミットの二人は、70年代の中盤ぐらいから、この手のハイセンスな音づくりで数々の名盤に携わっていますが、フランクスの声や雰囲気とのマッチングもピッタリなこのアルバムは、そんな中でも最高傑作ではないかと思います。
 心のどこかにあった、子供の頃に出会った懐かしい思い出をぼんやりと思い返している時のような…、気持ちが静かに和らいでいくような雰囲気を思い出させてくれるようなアルバムです。
 なお、マイケル・フランクスは、76年のデビュー・アルバム「The Art Of Tea」から、現時点での最新作「Watching The Snow」まで、一貫して同じスタイルの曲づくりを行ってきた人で、どこで切り取っても同じ味わい深さを感じることができます。どの作品でも、聴き終わる頃には、気持ちがゆったりと落ち着いているのに気づくはずです。(S.Y)

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シカゴ/リヴ・ウィズアウト・ユア・ラヴ

 AORというジャンル、「アダルト・オリエンテッド・ロック」の略なんですが、その意味は〜大人っぽい雰囲気で聴かせるロック〜ということになるかと思います。ひと口にAORといっても、いろんな風合いの曲があって、ジャズ/フュージョン系のものから、結構ハードなタッチのものも含まれていて、一概にどれが、とは言えないぐらいなんですが、曲づくりやメロディの中に都会的なセンスが含まれているものならば、広くAORのくくりの中に入れられてるみたいです。
 そんな中でも、1988年にシカゴがリリースした「リヴ・ウィズアウト・ユア・ラヴ」は、僕にとっては特に思い出深い一曲です。
 発売された当時は、ちょうどレコードからCDに移り変わろうかとしていた時期で、その頃「超」のつくシカゴの大ファンだった僕は、発売の1ヵ月も前から「もしかしたら、ちょっと早めにリリースされてるかも知れない」と、毎日のようにタワーレコードへ足を運んでいました。
 もともと、シカゴというグループは、ジャズ畑のホーンセクションチームを擁する「ジャズロック(ブラスロック)」の雄として名を馳せたバンドでしたが、78年の「愛ある別れ(If You Leave Me Now)」や82年の「素直になれなくて(Hard To Say I'm Sorry)」などの全米No.1ヒット曲がいずれもバラードだったことから、当人たちの思惑とは別に、「当代一のバラードバンド」として、大きな期待と人気を集めるグループになっていました。前記2曲を書き、ヴォーカルをとったピーター・セテラが脱退した後も、似た声質を持つ若手ベーシスト・ジェイソン・シェフを迎え入れて、これまでの路線を堅持。87年にエモーショナルなロック・バラード「スティル・ラブ・ミー/Will You Still Love Me?」を大ヒットさせることにも成功しました。
 そんな矢先での、待ちに待ったニュー・シングルのリリースということで、シカゴのバラードにすっかり虜(とりこ)になっていた僕は、そのレコードを手にするまで、居ても立ってもいられない毎日が続きました。ある日、またそわそわと落ち着きがない生活を送っていた僕のもとに、タワーレコードからの一本の電話が入りました。「シカゴのシングル、本日入荷いたしましたので」。
 すぐさまスクーターにまたがり、ロケットスタートを果たした僕は、一目散にタワレコへ。そして、ついに念願のシングルレコード「リヴ・ウィズアウト・ユア・ラヴ」を、自分の手中に収めることができました。はやる気持ちを必死に押さえつつ、スクーターを走らせて帰宅した僕は、心臓がバクバクと音を立てているのを感じながら、レコードをプレーヤーの上に乗せ、ゆっくりと針をおとしました。
 聞こえてきた音は、シンセサイザーによる神聖な響きを醸すイントロ。そして、名ヴォーカリスト、ビル・チャンプリンによる艶やかにしてエモーショナルな歌声。売れっ子ソングライター、ダイアン・ウオーレンの書き下ろしならではの、躍動感溢れる抜群のメロディセンスが、僕の胸に染み入るように飛び込んできました。
 今となっては、「当時よく流行っていた曲調だね」で片付けられてしまうこの曲ですが、その当時は僕や妻のようなシカゴファンが夢中になって聴きこんだ、何にも代えがたいほどの光をもった一曲でした。
「I don't wanna live without your love(僕は君の愛なしでは生きられない)」なんて、口にするには恥ずかしいぐらいの歌詞ですが、今でもこの曲を聴くと、あの当時の新鮮な思いが蘇ってきます。(S.Y)
 

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